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Author:うた
明日また、笑って1日過ごせるように
だから今日っていう日を大切にしていきたい。

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飼い主とともに、今もすくすくと体重は成長中(笑

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流 星 群

日々の笑顔、時々涙あり?凡々な日々を綴るブログです

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2006.08.25 Fri 23:39
*デフォルト名:そよ





「親(ちか)様」

「なんだ」

「独り言にございます。お気になさらず」

「ん。そうか」



「親様」

「ん?」

「…何でもございません」

「……ふーん」



「親様」

「俺がいなくなるのがそんなに寂しいか、そよ?」

「――――っ」



図星を突かれてしまえば、返す言葉も見つからず。
そよは耳まで真っ赤にして俯き、何も喋ろうとしなかった。



「そよは分かりやすいな。それだと戦の大将になってもすぐ敵の策にはまっちまう」

「……ずるい」

「ははっ、俺がずるいか」



間違っちゃいねえがな、と言いながら、元親はけらけら大袈裟に笑ってみせた。
そんな態度を見せる夫を目にして、からかわれているのだと分かってはいても腹が立ってしまう。
片頬を膨らませ、そよは先程よりも更に堅く口を閉ざしてしまう。
元親はもっとからかってやろうかと思ったが、目の前の必死な様子の妻が愛らしく思えて、しぜん自分の腕はその細身の肩を抱いていた。



「もう間もなくで、戦だ」

「…っ」



遠くからは慌しく廊下を走り回る家臣の足音。
城から一歩外に出れば、甲冑を身に纏い家紋揺らめく御旗を担いだ兵達が列を成し、硝煙の匂いが其処彼処で鼻につく。

……また、戦。
戦が始まるのだ。
無意識にそよの身体は強張る。
元親はそれを解してやるように彼女の背中をさすった。



「心配すんな。今度の戦はそう長くはかからねぇさ」

「……先の戦でも」



そよが、漸く独り言のように小さな声を零す。
その双眸が涙でうっすら滲んでいたことを、元親は気付いているだろうか。



「先の戦の時も、殿が同じことをおっしゃられました。それを信じて、そよは一年お待ちしました。――――…一年、です」

「一年か」

「……親様には分かりませんわ。待つ者の辛さなど。どれほど長く、どれほどこの身引き裂かれる思いなのかなど…っ」



言い終える頃には、既にそよの涙は幾重にも頬を伝っていた。
肩を小刻みに震わせて、堰を切ったようにわんわんと自分の胸の中で泣く妻を、元親は何も言わずに抱き続けていた。


一年。
如何にして敵に、戦に勝つことができるか。
頭の中はそればかりだった。
だがそうしている間、そよは来る日も来る日も自分の帰りを待ち続けていたのだ。
どれほど一日が…否、一瞬でさえ長く感じたことだろうか。
生きているか死んでいるかさえ分からず
ただ先刻に交わしたような漠然とした言葉のみを希望にして…

自分にとっての一年はあっという間だった。
だが、そよにとってのあの一年は、千年にも近い歳月であっただろう。
そして、自分は彼女に同じ思いを再びさせようとしている。
愛してやまない…かけがえのないこの存在を

――――今また、傷つけようと。


今すぐにでも戦に行くことなど取りやめてしまいたい。
そんな衝動に駆られながらも、それでも心の奥底はひどく冷静であることに、元親は気付いていた。
そして嗚咽を漏らすそよの頭を宥めるように撫でながら、言葉を紡ぐ。




「お前がどれだけ泣いても、俺のせいでどれだけ辛い思いをすることになっても、それでも俺はこの国のために戦う。戦わなきゃならねえ。――――大切なモンが、守るモンがこの国には山ほどあるからだ」

「…っ」



びくりと、一度だけそよの肩が上下する。
彼女にも、分かっていた。
時は戦国…
明日の我が身も保証できない、不安定不均衡なこの時代。
生き抜くため、何かを守るためには、誰かが戦わなければならない。
勝手な我侭が通用するほどこの時代は甘くはないのだ。
事実、自分は優しく抱きしめてくれているこの人に守られて生きている。
親様に守られているからこそ、豊かに生きることができる。
こうして愛する親様の傍にいられる。

――――幸せだと、感じることができる。



「でも、でも…っ」

「信じろ、そよ」

「…え?」



その一言の意味が分からず、そよは首を傾げて元親の顔を見た。
いつにもなく真面目な表情…
元親は片一方しかないその瞳で、切実に何かを乞うようにそよを真っ直ぐ見つめた。



「俺は嘘が大嫌ぇだ。だから嘘は言わねえ。騙しもしねえ。……絶対帰ってくると言えば、俺は必ずそれを守る」

「親様、何を…」

「元から敵に首を差し出す気はねえよ。だからそよ、お前は俺を信じて待ってろ。俺はお前のために戦う。戦って、生きて、んでまたこの城に戻ってくる」

「親…さま…」









「それが、お前と交わす誓いだ」


「ちか、い…?」



震えた声で問い返してきたそよに、元親は大きく頷いた。

誓い。
その言葉だけで、そよの心は充分すぎるほどに満たされた。
そう…
求めてやまなかったのは、これだったのだ。
不確かで漠然とはしていない、心にしかと在り続けるだろうその言葉…
強くあれる
信じ続けることができる
どの言葉よりも、私に力を与えてくれる…
親様との誓い…

気がつけば、そよはまた大粒の涙を流して泣いていた。



「おいおい…そよは泣き虫だな。そんなに嬉しかったか?」

「だって…親様、初めてそのようなこと、私におっしゃってくださる、から…っ」

「他のヤツなんぞにこんな恥ずかしいこと言えるか、馬鹿。お前はこうでも言っとかねえとすぐに悪いほう、悪いほうに考えちまうからな」

「も、申し訳ございませ…っ」

「あーもう、だからめそめそ泣くな。折角の自慢の女房も、これじゃあ台無しだろうが」



そう言いながら、元親は少々強めにそよの頬に伝う涙を掌で拭ってやった。



「……笑えよ、そよ。俺はお前の泣いた顔よりも、笑ってる顔が好きなんだ」

「親様…」



照れ隠しのようにわざとこちらを見ようとしない夫が、何だかすごくおかしくて。
知らず、そよの口元は柔らかに緩んでいた。
そういえばこうして素直に笑えたのは久しぶりかもしれないと、あとで気付くことも今は知らずに…。





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